「もうちょい体起こして」
「ん」
エースの言うことを素直に聞いているデュースに、途端、今起こっている現実がそら恐ろしくなって後ろを見上げた。
「デュ、デュース……」
「お前が嫌がってたのはこれだったのか」
目が合ったデュースは同情的な目を向けながらも、拘束が緩むことはない。
それどころか腕の力が強くなる。
「ごめんな、僕が軽率だった」
「そ……」
そんなのいいから今助けてくれないか、頭の中で警鐘のように何度も鳴らしているのに、実際の喉ははくはくと息を吸うだけで、どうしても声に出せない。脇から入れている両腕を外して欲しい。それだけでいいから。お願いだから。
「ぁっ」
上ばかり見ていたせいで胸の先に触れてきた手に注意が遅れた。
「気持ちいいのか?」
「ははは、デュースくん鬼畜〜」
エースはいつものように揶揄を入れ、こちらを見て色を孕んだ目でまた笑う。
「気持ちいいのはこれからだよな。デュースにも見せてやろうな、の可愛い乳首」
腹に忍び込んだ手がシャツの裾にかかったところで咄嗟に足が出た。左肩を一度は勢いよく突き飛ばしたが、二度目を繰り出す前に足首をふくらはぎごと掴まれ、反対の足で外させようとしたところで膝裏に差し込んだデュースの腕が邪魔をする。
「ってえ……、分かっててもマジで痛い……」
「お前、コイツ相手によく一人でやったな……」
「だろ? 今回チョ〜楽」
「諦めろ、僕の方が力が上だ」
再び入り込んだ手が体の線に沿って、辿るように裾を引き上げていく。引き上げられるにつれ、異性といくらも変わらない平たい肉がまろび出る。
「見える?」
「いや、服に隠れて……」
「じゃあ脱いじゃおうか」
首をくぐらせて襟刳だけ脱がされる。服が後ろにまとまって不恰好だ。「脱ぐか?」と優しげに出される提案も同意の一端となるようで頷けない。
「んっ」
親指の腹でゆっくりと先端を押し潰される。
「ほら、これがの乳首。こんな小さいのに触るとちゃんと拾って反応すんの」
いじらしいよな、そう言ったあとも指が往復して、段々と固く立ち上がっていく。肘打ちを出そうにも服が邪魔で上手く動かせない。やはり自尊心を捨ててでも脱いだ方がよかっただろうか。
しかしそのまま羞恥に晒され続けると思った胸は存外あっさりと手が離れ、拍子抜けしている間にズボンと下着が抜けていった。
「な、なにして……」
「前にできなかったこと」
「……ぇ」
イタズラっぽく舌を出したエースが顔をかがめて陰部を舐める。
「っバカ!! 汚い、へんた」
「別に男も同じようなもんだけどなー。あ、今度オレのも舐める?」
「死ね!! 死ね!! っ、〜〜〜〜!!」
足で暴れようとしたら陰核を狙って舌が触れる。動けなくなったところで芯を虐めていた舌が下り、全体を覆うやり方に変わる。
自分のものとは違う、強制的に濡らされていく混乱と奇妙な感触に、内部からもつられて分泌されて漏れていくのが分かる。いやだ。恥ずかしい。とてつもなくはずかしい。
糸を引くような小さな水音。
顔を離したエースが笑う。
「興奮してんじゃん」
「ッ、」
わざとだと分かっているのに辱める言葉に涙がこぼれる。
「ふっ……ぁ、……っ」
「ほんっと二人だとやりやすくていいわ」
「お前、もしかしてこれのため……」
「他に何があんだよ」
「……っ、…………っ」
「女の子だったのか」
「うわ、やっぱり気付いてなかった……。なに、男の方がよかった……?」
「いや、どっちでも構わないけど……、男ならどこがいいか分かりやすかったな、って」
そう聞こえたあと頭に軽い重が乗った。息を吸う音が間近で聞こえる。
「童貞」
「うるさい」
「まあそのうち分かるよ、敏感だし」
「そうだな……、臭いが濃くなった」
丸めた背中にのしかかるように体重をかけてくる。
すぐ傍でぐちゅぐちゅと音がする。横目に指の先が見えて自分の指を舌で濡らしているのが分かった。
落ちてきた毛先が耳郭に当たってゾワゾワする。身体が小さな刺激まで一つひとつ鋭敏に拾ってしまう。すり、と頬を頬で撫でられた刺激が腹の奥まで響く。
デュースはわざとらしく、時間をかけて、ゆっくり、丁寧に自分の指を濡らしていく。
直接耳を舐められている訳でもないのに傍でずっと粘着質な音が聞こえて目が眩みそうだ。
「できた」
ふんだんに濡らした指先でそっと胸の先に触れてくる。
「っ!!」
「かわいい」
「視姦プレイが好みかと思ったら羞恥プレイが好きなの? えっぐ」
「声出せばいいのに」
話す声がこそばゆさより強い刺激で伝わってくる。全身から毛が逆立ちそうだ。
慎重にぎこちなく強弱をつけて転がされ、前に覚えさせられたむずがゆさが、下からじわじわと込み上げてきて嫌になる。自分の体なのにどんどん自分の思うようにいかなくなっていく。
「ずっと我慢して苦しいだろ」
唇と唇の間に捻じ入れて、表面に当たった爪が歯をコツコツとノックしてくる。
「口、開けて」
可能な範囲で首を振るが聞き入れてもらえない。横からどんどん奥へと入り込んで、奥の歯茎からこじ開けようとする。袖を脱いで腕を掴みたいが少しでも口から意識を逸らせば中に入れられる。
「ひっ」
耳を噛まれて緩んだ隙に中へ入り込まれて、驚いたまま歯を下ろした。牙歯に肉が食い込む感触、舌に広がっていく鉄の味。次にどうするか動けなかった一瞬の躊躇を狙って喉奥まで突っ込まれる。
「が、ぁ、」
「駄目だろ」
追い出したいなら噛み切らなきゃ、デュースが咽頭まで指を入れてくる。
「っぁ、……ん、ぅゔっ!!」
「こわぁ」
気道を塞ぐところまで行きかけた指が少し引いて、上顎の柔らかいところをさすってくる。奥から手前へと短い距離を行き来されて、いくらかの嘔吐きと、こんなところまで快楽を拾うのかと絶望する。
「ほらぁ、泣いてんじゃん」
「ご、ごめん……」
喉奥まで入っていた指は舌根辺りまで下がって、呼吸が少し楽になる。
「あ、指はそのままで」
「調子のいい……」
もとよりデュースも完全には抜ききるつもりはないようでそれ以上は出ていかない。追い出したくて舌を突き出すと小さな穴に触れる。一瞬それが何か分からなかったが、口に広がった鉄の味で自分の歯型だと気付いた。まずい。デュースに一ミリも同情はしないがこの深さの傷は大丈夫なのだろうか。恐る恐るデュースを窺うと「大丈夫だ」とあまり平時と変わらない様子で頭を撫でられた。例え痩せ我慢だとしても本当に血生臭いことに慣れていたんだな、とこんな時なのに妙に気が抜ける。ともあれ、骨まで到達していなくてよかった。入れっぱなしにするより出して消毒した方がいいと思うが、せめて止血されるようにと傷口を舐めた。
「んゔっ」
胸の先を舐められて、指に牙が深く食い込んでしまった。慌てて顎を浮かせて歯を離す。笑ったエースは顔を上げて鎖骨から胸、腹、太腿と唇を落としていき、内腿をもう一度強く吸った後、その上にある陰唇に舌を這わせる。指で包皮をめくられ、こぼれた体液を纏わせて舌が往復していく。中にも指を入れられて、一本簡単に飲み込んでしまった。
「は、トロトロ」
時折違和感に慣れさせるよう奥に進みつつ、浅いところに戻っては腹側をノックするように叩く。
「腕疲れたろ、服脱ごうな」
背中でもたついていたシャツの袖が外され、解放感を感じる間もなく大きな手に覆われる。腰を引いてもすぐにデュースにぶつかって、引いた以上に差し込まれるだけだ。波のように大きくなってくる情動が頭をもたげるのが嫌だ。上半身を捻ってもびくともしない。頸に柔らかな唇が当たる。身体を密着しないで欲しい。抑えた手の上から指をなぞらないで欲しい。
逃げたいのに、逃げなきゃいけないのに、逃げ場がどこにもない。
「デュース。お前、声聞きたいんじゃなかったの?」
「いや……」
顔を上げたエースから呆れた声が聞こえる。
デュースの指はほとんど口内に残ったままだ。舌で突き出しても出ていく様子がなく、一向に口が閉じられる気配はないが、噛んでしまえば声は漏れない。穴を開けてしまったところには当たらないように他の箇所で。傷をつけない程度に弱く、声を出さない程度に強く。おもちゃを与えられた犬のようにデュースの指を噛み続けている。
「よかったな」
「……うるさい」
「あーあ、こっちもベッタベタじゃん」
「ん、ぁ……ゃ、ゃだ……」
あんなに出ていかなかった指がエースによって簡単に取っ払われる。栓をするものがなくなって心許ない。
「すっかり惚けた顔しちゃって」
顎に伝った涎を拭われながら顔を覗き込まれて、拒絶したいのに首が上手く振れない。何か動きをつけるのもだるくて、意思を示すのも億劫だ。
「目、こんなに蕩けてんのにな」
抉り出して見せてやりたい、そう言うエースの方が余程甘ったるい顔をしていて、これ以上顔を見たくなくて、余計な餌を与えたくなくて目をつむる。
なのにまた笑う音がした。
唇を吸われて、また口の中に異物が入っていって、好き勝手にかき混ぜられる。噛んじゃだめだ噛んじゃだめ噛むのだけは絶対に駄目。酩酊している頭の中に不釣り合いなくらいの警鐘がやけに響く。だめだだめだ絶対に駄目だ。出血どころじゃすまない。舌の場合、下手をしたら死んでしまう。とてもじゃないが噛み切ることはできない。
でも、そしたら、抵抗の仕方が分からない。
「ん、ん、んー!!」
出ていった指が今度は二本入れられる。行ったり来たりを繰り返しながら、それでも少しずつ奥を広げられて、くちゅくちゅと音を立てていた唇は糸を引いて離れる。腕を掴んで追い出そうとしても、弱いところを擦り込むように押されて視界がチカチカする。
「ん、ぐ、んんぅ」
「駄目だよ。お前これからもっと痛くて苦しいの入れられるんだから。一回くらいふやふやになっときな」
「ゃ、やっ、あっ」
「キツくないか?」
「んー、前はこれで結構なんとか入ったけど」
エースの言葉にもデュースは納得した様子を見せず、既に二本入っているそこに自分の人差し指まで挿入しだす。
「っや…………むりっ、むりむりむり、ぃ、ああぁぁッ!?」
隙間に無理に詰め込むように入れた指によって皮膚が伸ばされてピリピリする。痛い、いたい、破れてしまう。追い出された指はいたずらに陰核を触れては中を拡げようと浅いところを出入りする。頭上でエースが心配性だと笑っている。奥を叩くのもやめてほしい。そこは嫌だ。変な感じがしてくるから。
「ゃだっ……、ぬい、ぬいてぇ! もうお腹いっぱい! はいらない!!」
「お前ねー……、あとでもっかい言って……」
「ごめんな、。これ以上は入れないから」
「や、いやぁああ!!」
「今の場所覚えとけよー、デュース」
「分かった」
「っ、真面目か」
「ゃ、ぁ、あ、あぁあああああ!!」